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関する経験・実績の蓄積が不足している点である。瀬戸内業者ヒアリングでは、作業船建造の難しさとして、標準資料がなく、仕様が一船一船バラバラであることをあげ、実績と経験の積み上げによる技術蓄積が強みであると認識している造船所もあった。こうした、自社の強みに転化するまでの技術研鎖努力が不可欠のものと考えられる。
さらに、瀬戸内業者ヒアリングで受けた印象として、造船所並びにクレーンメーカーも含め、「オペレーターのニーズを具現化する」という顧客ニーズ本位の姿勢を貫いていることである。特筆すべきなのは、発注側の経営者のみならず、オペレーター等現場の声に謙虚に耳を傾け、積極的にニーズを汲み上げていることであった。道内造船所にあっては、『顧客本位』の姿勢について今後向上させていく点と、そうしたニーズを具現化するだけの技術力の積み上げが要求されるところである。
営業面の要因として根底にあるのは、海洋土木事業者の側で、「道内造船業者は、作業船分野に本気で取り組むつもりがあるのか」と懸念する声もあるほどの、営業努力の不足であると考えられる。北海道の造船業においては、従来、顧客との密着した関係の中での漁船建造という限定的な競争に立脚していたこともあって、顧客ニーズに対して鈍感な感じを受けるという印象を持つ海洋土木事業者も存在した。営業やPR努力を行わずとも、「丈夫でしっかりしたものを造れば、お客様は喜んでくれる」といった経営気質が、まだ根強く残っているといった指摘である。
道内造船業者の本州建造船に関する統一的なイメージとして、『安かろう、悪かろう』といった認識をしている部分がある。こうしたイメージを持つに至る根元は、かつて道内で導入されることの多かった、本州建造の中古船に対する評価が影響していると考えられる。すなわち、より静穏な海域である瀬戸内海等で運用されていたことに起因する構造の脆弱さや、建造当時に想定されていた消波ブロック重量と転売後の使用重量の差による強度不足、または既に淘汰された技術力の劣る本州造船所の建造した中古船等を指しての認識である。しかしながら、瀬戸内地域では、厳しい業界淘汰が既に痛みとして経験され、現時点ではまさに品質の確保と稼働率のあくなき向上といった経済原理に基づく生産合理性が徹底された姿であることが感じとれた。このように、作業船市場の事実関係を正確に把握することが大前提として求められ、先に述べたように旧態依然の経営気質を払拭し、顧客満足を最大限に充足しつつも、シビアな営業努力を行っていくことが今後の大きな課題となるであろう。
また、道内海洋土木事業者からのヒアリング調査で分かったのは、造船業者と海洋土木事業者の現状認識で大きく異なる部分がある、いわば『認識ギャップ』の存在である。ヒアリングのまとめの部分でも紹介したが、一例をあげると、海洋土木事業者側では「道内造船所では仕事が丁寧すぎるため、オーバースペック(使用条件を考慮せず、漁船建造の延長上に必要以上に丈夫な造りを志向する点)になっている」との意見が多数なのに対し、造船業者側では「北海道の海に対応した丈夫で長持ちのする船を造っている」と考えている点などである。こうしたケースが散見されることは、道内造船所が顧客との意思疎通を含めた、顧客ニーズの吸収をこれまでおざなりにしてきた面もあることが理由として考えられる。前述の経営気質の改善と合わせ、営業活動並びに情報収集活動などの面で、今後の改善努力が求められるところである。

 

 

 

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